娘のクセ

娘と一緒にお風呂に入る時は私がいつも娘の頭を洗っています。

その日も娘の頭を洗うために私が先に浴槽から出て自分の頭を洗いました。

頭にシャンプーをつけシャワーで泡を流そうとした時、少し仕事の疲れが出てきたためしばらくシャワーから流れるお湯を見つめていました。

「パパ、流れるお湯を見て何を思ってるん?」

1分程何もせずにお湯を見続けていたため娘が心配して声をかけてきました。

「お湯って人生みたいやなって思ってた」

その言葉を聞いて娘は呟きました。

「さすがイケメン」

教育の成果でしょうか、娘は男のカッコよさというのをよく分かっています。

私は泡をシャワーで流し娘が浴槽から出てきました。

「頭洗うのちょっと待って、先に洗顔するから」

先日娘にねだられ泡で出てくるタイプの洗顔フォームを購入しました、どうやら毎日使っているようです。

ポンプを2回ほど押し泡を手にのせ綺麗にゴシゴシと洗顔を始めました。

娘ももう小学4年生になるので色気づいてきたようです、私も同じ年ごろから見た目を気にするようになっていたので微笑ましく思っていました。

私が感慨にふけっていると顔全体に泡をつけた娘はお湯を一杯にためていた風呂桶を両手で持ちました。

顔を正面に上げたまま同じ高さまで桶を持ち上げ自分の顔に叩きつけるような勢いでお湯を浴びせました。

バシャーンとお風呂の中に激しい音が響き壁や床に泡が激しく飛び散りました。

一度では満足できなかったらしく再び浴槽からお湯をすくい、風呂桶にお湯を一杯にいれ先ほどと同じようにお湯を自分の顔に叩きつけました。

何が起こったかわからずしばらく呆然と娘を見つめていると何事もなかったかのように「パパ、頭洗って」と声を掛けてきました。

「まてまて、今のは何?」

「今のって?」

どうやら私を笑わせるためにした訳ではなさそうです。

「いや、何でもない」

私は取り合えず先ほどの事は触れず娘の頭を洗いました。

泡をつけ1分程洗いお湯で流そうとしたところ、ふと娘はシャンプーの泡をどうやって洗い流すかが気になりました。

私は被害が及ばない様に浴槽に入りお湯が入った桶を娘に手渡しました。

「頭は自分で流してね」

娘はわかったと返事し、桶を持った両手を頭上に高く掲げ桶をひっくり返しました。

バシャーン、お風呂の中に泡とお湯が飛び散ります。

まるで戦場に向かう前の武士のようなお湯の浴び方です。

娘は3回同じ作業を繰り返し私が驚きで目を見開いている間に「先に出るね」と言ってお風呂から出ていきました。

遅く家に帰った時にいつもお風呂場が汚れている原因をやっと突き止める事ができました。

娘のクセが強いお湯の浴び方はしばらくこのままにしておこうと思います。

歯磨き

大体私と娘は7時ごろ妻に起こしてもらいます。娘は集団登校で学校に行くため近所の子供達と一緒に家から近くのマツモトキヨシに集まります。

遅くとも家を7時35分にでます、起きてから出発までたったの35分です。

私も同じ時間位に家をでるので朝はいつもバタバタしています。

ある朝娘がいつものように朝食を終え歯磨きをしているといきなり叫びました。

「お母さん長いよ!」

私は居間で歯磨きをしていたため何事かと思い、娘が歯磨きをしている洗面所まで足を運びました。

洗面所では妻と娘が一緒に歯磨きをしていました。

妻に目を向けると口から歯磨きの汁が垂れ50センチ位の長さになっており洗面所のシンクにくっついていました。

人を最も不快にする歯磨きの汁の長さです。

妻はついに口元も緩くなってしまったのでしょうか?

私は逃げるように居間に戻りました。

数分居間で歯磨きを続けていると娘は準備を終えたらしく家から出ていき妻と2人きりになってしまいました。

私は歯磨きを終えるべく洗面所に向かうと妻は鏡を見ながら髪をといています。

歯磨き事件がなかったようなすました顔をしていたためイラついた私は妻に言い放ちました。

「さっき不快なものを見てしまったわ。」

妻はその言葉に反応せず髪をといています。

聞こえなかったのかと思いながら歯ブラシを置き洗面所を後にしようとした瞬間私の首に妻の手のひらが叩きつけられました。

強烈な喉輪です、首がしまり息ができません。

「うわー」

私は叫び声をあげ妻の手を外しその場にしゃがみ込みました。

過呼吸になりそうな状態で妻を下から見上げました、素人が出せる技ではありません。

妻は私を見下ろし言い放ちました。

「あんたのせいよ」

何が私のせい?ちょっと何言っているかわかりません。

歯磨きの汁も私のせいにする妻の心意気に乾杯。

評価

いきなりですがはっきり言わせて頂きます、私は男前です。

ジャニーズと同じ位とはさすがに私も言えませんがいい顔をしていると思います。

朝起きて出勤前に顔を洗い鏡を見ているとついつい「カッコいい」と呟いてしまいます。

毎朝私がそう呟くたびに隣の部屋から「気持ち悪い」と幻聴が聞こえますがもう慣れてしまいました。

そんな私ですがふと他者からの評価が気になり、ある晩娘に私の評価を聞いてみる事にしました。

「パパはカッコいいと思う?」

「うーん、10段階で言うと4かな。」

思ったよりかなり評価が低く私は満足できません。

「いーや、3よ。」

隣の部屋から幻聴が聞こえますが気にしないでおきます。

「お母さんの顔の評価が4やったらわかるけど、パパはもっと上やろ。」

「私から見たら同類よ。」

娘の評価は変わりません、流石に腹が立ってきました。

「じゃああんたは何点なん。」

「私は10点よ!」

娘は何故かわかりませんが自分の評価は100点満点でつけたようです。

自分の見た目の評価が低い娘と話していても埒があきません。

寝室で横になり服の後ろがめくれて背中を丸出しにしながら携帯を触っている妻に確認しにいきました。

「俺の顔は何点?」

「あんたは3点よ!」

妻は3点満点で私を評価してくれたようです。

10点満点中2点の妻に初めて感謝した夜でした。

ハーゲンダッツ

私は仕事で現在育成を担当しています。今回会社に派遣会社から新人の女性が3名入りました。

新人が入るのは2年ぶりでワクワクしました。

3名とも20代後半の若い女性です。

新しく会社に入った若い女性と30代から40代位の先輩(既婚)との間に恋が芽生えるのはよくある話です。

既に覚悟はできていますが更なる決意と覚悟が必要です。

そういう場合はどうしたらいいのでしょうか?

娘に相談するしかありませんね。

娘ももう10歳です、私の決意と覚悟を分かってくれるはずです。

さっそく娘と一緒にお風呂に入っている時に相談を持ち掛けました。

娘は湯船につかりながら必死に鼻をほじっています。

「ちょっと相談なんやけど。」

「何?」

「俺、彼女作ってもいいかな?」

「ダメー!!」

強く否定されましたがまだ引くわけにはいけません。

「何で?」

「私が嫌なの、彼女作らんって約束して。もし約束破ったらハーゲンダッツ3個買ってもらうからな。」

全く問題ありません。

「わかった、3個買う。」

「ちがーう、そうじゃないんよ。じゃあ1000個買ってもらうからな。」

1個300円位として1000個で30万円です、何とかいけそうです。

私は力強く娘に伝えました。

「わかった、1000個買う!」

「ちがうんよ、もうじゃあ店ごと買ってもらうからな。」

ハーゲンダッツの店を購入するにはいくらかかるんでしょうか?

大変だと思いますがそれでも彼女をつくりたい気持ちは揺るぎません。

よくよく考えるとハーゲンダッツの店舗経営者ってとてもモテそうです。

ハーゲンダッツジャパン株式会社に交渉に行き熱意を伝え岡山に出店する。

そして私がそれを経営する。1分程で考えがまとまりました。

「わかった、俺は経営者になる。」

「ちがーう!」

風呂場で娘の絶叫が響きわたった夜でした。