芸術交流

去年(2019年)の9月27日から11月24日の2ヶ月間の間に「岡山芸術交流」という岡山市で3年ごとに開催される国際現代美術展がありました。

有名なアーティストを岡山に迎え岡山城・岡山後楽園周辺エリアの様々な歴史文化施設を会場に開催されました。

芸術に造詣が深い私としては当然そのイベントに興味を持ち、お腹周りに問題を抱えた妻と娘を連れて会場を回りました。

私たちはまず岡山城に向かいました。

岡山城では美術展とは関係なく同時に「宇喜多秀家フェス」というのをやっていました。

鉄砲隊による火縄銃の演武や甲冑を身に付けた大勢の人が大行列を作っていたり屋台がたくさん出ていたりと、とても賑わっていました。

その賑わいから外れた隅っこに小さな蔵があり、その入り口にひっそりと岡山芸術交流の垂れ幕がかかっていました。

妻は屋台をまわりたいとの事で別行動をとり、娘と一緒にその蔵の中に入りました。

蔵に入ると中は真っ暗で、私たち以外には60代位の一組の夫婦がいるだけでした。

少し待っていると40代位の外国人女性が裸で運動をしている映像が流れだしました。

足を交差させたり、体育館で寝転んでいたり、芸術家がよくとるポーズの手を斜め上にあげてその先を見つめていたりする映像が延々と流れていました。

娘と私は映像の終わるタイミングがつかめず、ただただその女性の鍛えられていない肉体が動くさまを呆然と観ていました。

他のお客さんが入ってきたタイミングで蔵の中から出て妻と合流しました。

妻に感想を聞かれましたが無言で次の会場に向かいました。

次の会場は林原美術館です。

美術館に入ると何も物が置いていませんでした。

不思議に思い少し周りを見渡していた所、ガラス面の奥の普段美術品を置いている展示スペースに映像が流れ始めました。

映像はアニメの10代後半くらい女の子の上半身だけが映されており、ずっと英語で何かをしゃべっています。

帰国子女の私はアゼルバイジャン語とマラヤーラム語とサンスクリット語はわかりますが、それ以外の言語は全くわかりません。

このまま英語の喋りだけではなく何かあるだろうと思いじっと聞いていましたが、そのまま何もなく10分ほどで映像が終わりました。

少しがっかりして他の場所に移動しようとした所、美術館の奥の袖口から女子高生位の女の子がゆっくりこちらに向かって歩いてきました。

先ほどの英語の映像をずっと観ていたのは私と40代位の男性2人だけでした、妻と娘は途中で飽きて外に出ていました。

その女の子は私たち2人の前に立ち喋りだしました。

「私は芸術家から作り出され、ずっと閉じ込められていた。私は2次元、3次元、4次元?」

どうやら先ほどの映像の女の子が現実に飛び出してきた設定のようです。喋りながらその女の子は私たちの周りをゆっくり歩きだしました。

その女の子の話を聞いているのは私を含めて2名だけです、逃げられません。

5分程不思議なトークが続きいていた所その女の子が話を聞いていた40代位の男性に話しかけました。

「忙しいのと忙しくないのはどっちがいい?」

男性は少し考え答えました。

「忙しいのがいい。」

女の子は更に質問をしました。

「それは何故?」

「充実感があるから。」

「わかる気がする。」

よくわからないやり取りをした後、さらに女の子は5分程話しました。

「18世紀に私は産み出された、その時よく銀食器を使い生活していたの。」

無の境地で女の子のしゃべりを聴いていた所、女の子が話しかけてきました。

「質問していい?」

ここで断れるほど私は図太くありません、はやく話しを終わらせてほしいと思いながら私は返事をしました。

「はい。」

すると女の子は言いました。

「希望と憂鬱の関係性は?」

先ほど隣の男性にした質問とレベルが違いすぎます。

全く意味が分かりません、今の状況になっている事ですら分からないのに希望と憂鬱の関係性なんてわかりません。

私が答えに苦しんでいると無表情のまま女の子は更に詰め寄ってきました。

「希望と憂鬱の関係性は?」

全身から汗が噴き出してきました。私と隣の男性とあなたとの関係性と同じくらい全く何も関係ないと思います。

「分かりません。」

悩んだ末に放った私のその言葉を聞き女の子は数秒間を置き

「さようなら。」

と言い放ち呆然としている私を残して美術館の袖口に戻っていきました、一般の人であればとても失礼な対応ですがこれが芸術なんだと無理やり納得しました。

他にも5ヶ所程会場がありましたが林原美術館を出るとドッと疲れが出てしまいすぐ家に帰りました。

芸術を産み出す事は大変だと知っていましたが、鑑賞するのも大変なんですね。

希望から憂鬱に変わった一日でした。

料理

休みの日にたまに私は料理をします。

少しでも家族に喜んでもらいたいと思い料理をしますが得意でないため簡単な揚げ物中心になる事がほとんどです。

妻と一緒に料理をする事もあり、その時は野菜を切ったり、お米を洗ったり補助的な事をします。

先日も妻の料理中にお米を炊くよう指示がありました。

「ごんごう炊いて」

「ごんごうって何?」

「お米五合の事じゃ、あんたも毎回ごんごうって言いよるが。」

毎回お決まりの無意味なやり取りをした後、私は妻が魚を捌いている足元で座りながらお米を測っていました。

「相席屋に行きたいなー。」

お米を測りながら私は無意識に心の声を呟いていました。

「相席屋って高いんじゃないの?」

妻は私の独り言に食いついてきました。

「いや、30分1500円位。」

「女性も同じ?」

「女性は無料なんよ。」

「でも相席屋ってあんまりお客さんが入らないでしょ?」

思っていた以上に妻も相席屋に興味を持ったようです。

食べる事と服の毛玉を取る事以外の何かに妻が興味を持つのはめったにありません。

せっかくなので詳しく教えてあげようと思い私は伝えました。

「いや、そんな事ないよ。前の日曜日に相席屋に電話したら男性が2組と・・・。」

私の言葉を遮り妻は叫びました。

「何で相席屋に電話しとんじゃー!」

妻の近くに座り込んでいたため妻は思いっきり私を踏みつけてきました。

妻は私の頭を踏みつけようとしてきましたが体が硬くて体重があるため足があまり上がらないらしく座り込んでいる私の太ももを踏みつけてきました。

私は全身を守ろうと思い頭を両手で覆い体を丸め亀の防御体勢になりました。

「痛い、痛い。」

私の悲痛な叫びが家に轟きました。

「誰に相席屋に電話した話をしよんよ!」

この質問は前振りです、私は亀の体勢のまま答えました。

「戸籍上は妻かな。」

その答えを聞き妻は無言で私にサッカーボールキックを放ち続けました。

私と妻の一連のやり取りを居間から見ていた娘は確信を持っていいました。

「我が家は明るいなー。」

何回思い返してみても明るい要素がどこにあったか未だに不明です。