怒髪天

先日の土曜日に有給休暇がかなり余っていたため午後半日有給を取得しました。

13時に仕事が終わり家に帰ると妻も娘も出かけていて留守でした。

娘は友達と遊びに、妻は川に洗濯にでも行ったのでしょう。

大きな桃を持って帰ってこない事を願うばかりです。

妻と娘がいない事に深く安堵し私は一人の時間を楽しむべくスマホゲームで遊んでいました。

私は一人の時間を十分満喫していました。17時を少し過ぎた頃、外からワッハッハと下品な笑い声が聞こえてきました。

どうやら娘が友達と一緒に帰ってきたようです。

私はまだ仕事着のワイシャツの格好のままでした。娘が帰ってくるのであれば着替えておこうと思って立ち上がりました。

すると部屋の明かりに気づいたのか外から娘の声が聞こえました。

「あれっ?あいつ早いな。」

その声が聞こえた瞬間私は部屋の中で叫びました。

「誰があいつなんや!」

父親に向かってあいつと言わせるような子供に育てた覚えはありません。

ワイシャツを引きちぎるように脱ぎ捨て急いで着替えました。

怒りのあまり手が震えて着替えにも少し時間がかかりました。

玄関に行き靴を履こうとしましたが手が震えて靴ひもも中々結べません。

私は今まで娘に手をあげた事はありませんでしたが今日初めて娘に手をあげてしまうかもしれません。

靴ひもがほどけたまま私は怒りにまかせ扉を勢いよく開けました。

「あいつ早いよ、捕まえて。」

「やったー、7匹目。」

外では娘が友達と一緒にトンボを追いかけていました。

心温まる風景に耐えられなくなりバレない様にそっと室内に戻ろうとしたところ娘が私に気づき近づいて声をかけてきました。

「あれ、パパ帰ってたの?今日トンボいっぱい捕まえたよ。」

キラキラした目で私を見つめてきます。

「す、すごいね。よ、よかったね。」

適当に声をかけた後に娘をおいたまま急いで室内に戻り鍵をかけ念のためアーム式の内鍵もかけました。

恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になっていたのがバレていない事を願うばかりです。

歴史は繰り返す

私が好きな名言の1つに「歴史は繰り返す。」という言葉があります。

ローマの歴史家クルチュウス・ルーフスの言葉です。

過去に起こったことは、同じようにして、その後の時代にも繰り返し起こる。という意味です。

自分に置き換えてみても何度も同じ失敗を繰り返し、その都度反省してもまた同じ事を繰り返してしまいます。

人間の本質を突いた深い言葉です。

最近その言葉を思い知らされる事件が起きました。

我が家では9月も半ばを過ぎましたが夏の暑い日がまだまだ続いているためまだ扇風機を使用しています。

私が仕事を休んで家でのんびりしていると玄関からガンガン、ガンガンとドアノブを何度も何度も引っ張る音が聞こえました。

鍵がかかっている事に気づいたのでしょうか次はチャイムを鳴らす音が何度も何度も繰り返されます。

恐怖を感じながら私は鍵を開けてそっとドアを開くとそこには汗だくで髪が額に張り付き不満そうな顔をした娘が立っていました。

娘には私が不在の場合に備えて家の鍵を渡していますがまだ使い方がわかっていないようです。

娘は家に入り靴下を脱ぎ床に叩きつけるように投げ捨てランドセルを居間に放り投げました、まるで品がありません。

妻に似ています。

「パパ、アイス食べていい?」

私の返事を待たずに娘は冷蔵庫からアイスを取り出しかぶりつきました。

何故食べていいか質問したのか不思議に思っていると娘は扇風機のスイッチを入れ扇風機の羽から3センチ位離れた所まで顔を近づけました。

その後の娘の言葉に私は驚愕しました。

「ワレワレハウチュウジンダ(我々は宇宙人だ。)」

歴史は繰り返されます。

ちなみに別の日ですが娘と一緒にカフェに行った時に

「パパ、このお店シャレオツやな。」

と言っていました。

回転

普段私は妻と娘と同じ部屋で寝ています。

座敷の部屋に布団を3つ敷き、扉近くが私の布団、真ん中が娘、窓際が妻です。

その日は私の仕事が夜勤だった為、帰って夕食を食べ、お風呂に入った後寝室に入りました。

娘は布団に潜り込み漫画を見ており妻は布団に入り窓側を向き携帯を触っていました。

ふと妻の背中を見てみると服がめくれ上がって背中が半分見えていました。

とても大きく質量があるこの背中は何かに似ています。

「アザラシかな?」

私がたまらず呟いた所、妻の背中がピクッと反応しましたが何も言わず携帯を触っています。

私は安心し扉側を向いて携帯を触っていました。

2分程携帯を触っていると娘の悲痛な叫び声が聞こえました。

「わー、助けてー。」

後ろを振り向くとアザラシが・・いいえ妻が横になったまま両手両足をピンと伸ばし真ん中にいる娘を押しつぶしながら私の方に向かって転がってきました。

このままですと私は車に轢かれたカエルのように押しつぶされて平たくなってしまいます。

私は必死に両手を伸ばし妻を押さえました。

私の手は妻の二の腕をつかみました、成人女性の二回り程の太さがありとても質量がありました。

妻を片手で押さえたまま私は自分の二の腕を触り妻との差を確認しました。

「いらん事言うな、いらん事すな!」

妻が叫びましたが私は自分の二の腕を触っただけです。

「いや、何も言うてないけど。」

「行動が物語っとんよ!」

我が家のアザラシは心理学にも長けているようです。

結局その日は妻を自分の布団に戻すのに30分かかりました。

(説得の時間含む)