ボケ

私の娘は家でよくボケます。ボケてボケてボケまくります。

ある日、仕事が終わって家に帰りドアを開けると娘が妻に土下座していました。

手は「八の字」の形で地面につけられ頭は床から1cmの高さで固定されていました。

理想的な美しい土下座です。

「ごめんなさい、ごめんなさい、許してください。靴の裏でも何でも舐めます!」

娘が声を張り上げて謝っていましたが思わずツッコんでしまいました。

「せめて靴の表にしようや・・」

またある日、娘がガムを噛んでいました。

「パパ知ってる?」

「何が?」

「ガムは油分に弱いんよ。例えばガムを噛んでいる時に油分の含んだ食べ物を食べると溶けるんよ。唐揚げとか、他にもアイスを油分を含んでいるからガムを食べながらアイスを食べても溶けるんよ」

娘はよく本を読んだり、知識系のTV番組をよく見るので結構物知りです。

「凄いね、知らなかった」

私は純粋に娘の知識に驚きました。

「この前私がガム噛んでいる時に不意に自分の指をくわえてみたら、ちょっと溶けたんよ。油分の含み具合にイラっとした」

ちゃんとオチをつけるあたりがやっぱり私の娘です。

そんなボケまくる娘が学校でどういった生活を送っているのかふと気になって聞いてみました。

「あんた学校でもそんなにボケるん?」

「ううん、私は学校でツッコミ役」

娘は何でそんな当たり前の事を聞くんだというような顔で答えました。

「何で?学校ではボケんの?」

家では5分毎ボケる娘が何故ボケないのか?もしかしていじめられている?いじめられていないにしても学校では伸び伸びできていない?

少し不安になって聞いてみました。

すると娘は口元の片側を少し曲げ不敵な笑みを浮かべて答えました。

「小学生は私のボケのレベルについてこれんからな」

「同級生には変顔で充分よ、顔だけで爆笑とれる」

さすが私の娘です。

「気持ちわかるわ。パパも会社で爆笑とってるけど笑いのレベルが高すぎてついてこれん奴おるからな」

娘と私は同じレベルの感覚を共有しているようです。これぞ「一流は一流を知る」という事でしょう。

私が感慨深く感じていると、いつものように黙って温いコーヒーを飲んでいる妻から言葉がとんできました。

「私でもあんた達の会話についていけれんよ。あんたらと会話してたら、ただ疲れるんよ!」

妻を会話だけで疲れさせることができる男・・・うん、カッコいい!

これからも自分を貫いて生きていこうと決めた日でした。

散歩

ゴールデンウイークに家族で渋川動物公園に行ってきました。

この動物公園ではライオンやゾウ等、目玉になる動物はいませんが犬や猫、牛や馬や羊など可愛い動物がたくさんいます。

更に動物園の犬を連れて園内を散歩する事ができます。

入園料も大人1100円、小学生800円と、とてもリーズナブルなお値段で一日楽しむ事ができます。

「犬の散歩したい!」

動物園に入ってすぐ娘がおねだりしてきました。

前々から娘は犬が大好きなため、一緒に散歩をしたいようです。

散歩の料金を確認すると半日1200円、一日1700円と書いています。

娘からおねだりされた妻は渋々スタッフに言いました。

「犬の散歩したいんですけど半日でお願いします」

「ゴールデンウイーク中は1700円になりますけどいいですか?」

繁忙期のためこの期間は料金が上がっているようです。

妻はスタッフに聞こえるように大きく舌打ちをしました。

スタッフがたじろいでいます。

10秒ほど妻は逡巡し、大きく溜息をつきました。

「じゃあそれで」

周りの空気が悪くなった所で妻はお金を払い、どの犬を散歩するか選びに行きました。

たくさんいる犬の中から娘は「なのは」という名前の柴犬の女の子を選び散歩する事になりました。

犬が糞をした時用に土の中に埋めるスコップと散歩中に飲ますペットボトルに入れた水と器を渡され、私がその荷物を持ち娘が犬のリードを持ち歩き始めました。

娘はとても上機嫌で散歩をしています、時々おしっこをしてマーキングをしていました。

マーキングをしていたのは娘ではありません、犬です。

散歩中に2回ほど糞をしました。

娘ではありません、犬がです。

園内を一周しようとしていた所、途中で分かれ道にでました。

犬はかなり力強く、娘は目的の道から外れていきました。

「ちょっと、こっち行くよ!」

私は叫びましたが娘は犬に引っ張られて目的とは違う道に消えていきました。

疲れた、足が痛いと文句を言って不機嫌な様子を隠さず後ろからついてきていた妻は娘が心配になったようです、重い身体を引きずりながら追いかけていきました。

妻と娘と別れた私は別の道を進み馬のコーナーで餌を購入し馬と戯れていました。

10分程でしょうか、普段の仕事の疲れを餌を食べている馬の可愛い瞳で癒していた所、娘から電話がかかってきました。

「パパ、どこにおるんよ。早く来てや」

とても焦った声です。

「どうしたん?」

「犬が水を飲みたがっているんよ、早く来て」

そういえばスコップも水も私が持ったままです。

「もうちょっとゆっくりしたいんやけど・・」

「犬の呼吸が荒いんよ、水飲みたがっているから早く来て」

娘とは別々の道でかなり進んでいたため場所が分かりません。

私はとりあえず来た道を戻ります。

その間も娘と妻から頻繁に電話がかかってきました。

早く、どこにいる、今すぐ戻れ。

急かされまくった私は途中から全力で走りました。

妻と娘は動物公園の入り口近くまで戻っており、私は息せき切って15分程かけて汗だくで戻りました。

「パパ、どこ行っとったんよ。早く水出して」

娘にせっつかれ私は犬の目の前に器を置き水を注ぎました。

犬は水に見向きもせずあらぬ方向を見つめています。

「水よ、飲んでいいよ」

娘は水が入った器を持ち上げ犬の口元に近づけました。

犬は嫌そうにしていましたが、器を口元に押しつけられたため仕方なく軽く水に口をつけました。

舌を若干水で湿らした犬は、器から顔を背けあらぬ方向を見つめ続けています。

これは多分ですが水を持ってこなくても良かったんじゃないんでしょうか?

自分の唾液で事足りていたと思われます。

動物公園の入り口近くまで戻った犬は散歩の続きを嫌がりリードを強く引っ張りましたが梃子でも動きません。

仕方なく受付に犬を返し気まずい雰囲気のまま動物公園を30分程周り帰りました。

「水いらず 犬の散歩は 唾液のみ」

素敵な川柳ができたゴールデンウイークの一日でした。