雁字搦め

妻は癇癪持ちで無愛想ですが機嫌の良い日は私に話しかけてきます。

一番話しかけてくる回数が多い時間帯は仕事から帰って夕食の準備をする前、二番目は寝る前です。

その日も仕事から帰ってきた妻はお決まりのパターンの動きでインスタントコーヒーを作り、夕食前のお菓子を貪っていました。

「何か疲れとるんよ、まだ水曜日よ。」

妻がぼやきました、妻の勤務は月~金で土曜日が仕事の日もあります。

「仕事が忙しいんやろ?」

仕事が忙しい時期は休みまでの勤務が長く感じるのは良くある事です。

「そんなに忙しくはないんやけど、長く感じるんよ。もしかしたら無限ループしとるんかも。多分、無限ループしてる。」

妻の言葉を聞き私は瞬時に怒鳴りました。

「無限ループしとるんやったら、もっと上手く人生送れとるやろ。このありさまか!」

「いらん事いうな、黙っとれ!」

私の言葉で険悪な雰囲気になってしまいましたが言わずにはおれませんでした。

その後、夕食を食べ娘と一緒にお風呂に入り娘を寝かしつけました。

娘が寝付いた頃、寝室に妻が入ってきました。

我が家の寝室は睡眠の時間は常夜灯にするのが決まりです。

私は真っ暗にするのが好きなのですが妻と娘は常夜灯で眠る方が落ち着くようです。

妻と私の間に子供が挟まり川の字に布団をしいて寝ています。

妻は窓際の一番奥の布団に入り暗闇の中、ネットサーフィンをしていました。

私も携帯を触っていたため、しばらく無言の時間が続きました。

「何か面白い事あったらしゃべってや。」

いきなり私に話しかけてきた妻の顔に目を向けると携帯の明かりに照らされ頬肉がいつもより強調されて凄い顔になっていました。

「頬の肉凄いよ。」

「いらん事いうな、黙っとれ!」

食事前も寝る前も話しかけてきたのは妻からですが私が話をしたら怒られました。

私は家の中では雁字搦めです。

帰りの車内

ある休みの日に車で出かける用事があり妻から車を借りました。夕方になり妻を迎えに行き、その後で娘を学童保育に迎えに行きました。いつも通り妻は私の後ろに座り娘は私の横に座ります。

最近車の中では流している音楽に飽きてきたため今ではラジオを流しています。

妻と娘をのせた帰りの車の中で特に会話もなかったためラジオを聴いていると、ラジオパーソナリティの女性がゲストの俳優と対談をしているようです。

ラジオパーソナリティの女性の声は若干高く優し気でとても私のタイプでした。

「この女性と付き合いたいな。」

心の声が自然と漏れてしまいました。

「なれるわけないやん、ラジオよ。」

娘のツッコミは正しいですが、心ではそれを受け入れたくありません。

「そうかもしれん、でももし何かの拍子で出会う事があったら恋が芽生えるかもしれんよ。」

「でも結婚して子供もいる40近い男には女は寄り付かんのよ。若い男しか見てないんよ。」

小学4年生はやはりまだまだ子供のようです。

「それは違う、そういう男がいいって言う女もおるんよ。」

「頭がこんがらがってきた。」

娘は混乱しています、もう一押ししておきたい所です。

「結婚しているからとか年齢が何歳だからとかじゃないんよ。優しくて、明るくて、上品だったらモテるんよ。あんたも小4やけど彼氏おらんやろ、年齢じゃないんよ。あんたの机も汚いやん、綺麗にしたらモテるよ。」

せっかくいい機会なので娘の机が汚い事を注意した所、娘は私を見つめ力強く言いました。

「私は彼氏がいないんじゃないんよ、男達に私がいないんよ。机が汚いんじゃない、私が美しすぎるんよ。」

それを最初から後ろで黙って聞いていた妻はそこで初めて言葉を発しました。

「一言一言がアホやな。」

妻のツッコミのレベルは上がってきたようです。