ほっこり

私はコールセンターに勤めているため土日の仕事も多くあります。妻は主に日曜日が休みです。

その日の日曜日は日勤だったので早めに家路につく事ができました。18時頃に家についたため妻と娘をビックリさせようと思い鍵を音が鳴らないように静かに開けてこっそり家の中に入ろうとしました。

鍵をゆっくり回しましたが少しだけカチッと音が鳴りました。

少しだけ音がしてしまった為、ばれないように1分ほど時間をおきドアノブを静かに開け家の中をのぞきました。

すると何という事でしょう、そこには妻の顔がありました。

物音に気付き玄関口に無言で無表情で立っていました、玄関から顔をのぞかせた私から20cm程の至近距離に妻の顔です。

「うわー!」

私は逆に驚かされ叫び声を上げました。

「あんた、何に驚いとんよ?」

気持ちを落ち着け冷静に周囲を見渡すと妻は私から1m位離れていました。

妻は顔が大きいため距離を測り間違えてしました、妻の1mの距離は体感では20cmです。

妻とは結婚して10年たちますが、妻の顔の大きさにはいまだに慣れる事ができません。

「いやいや、何でもない。」

両方の意味で、でかい顔をするなと言いたかった言葉を飲み込みました。

私は気持ちを落ち着け荷物を置き居間に入りました。

それから家族で一緒に夕食を食べ娘と一緒にお風呂に入りました。

お風呂の中で娘は同級生の話をしてきました。

「私のクラスに漢字女王がいるんよ。凄いんよ、いっつも漢字テスト100点でわからん問題が出てたら泣いてたんよ。」

確かにそれは凄い事ですが私の娘も負けていません。

「いやいや、あんたの方が凄いよ。実家の風呂で『押すなよ、押すなよ。』をする小学生いる?」

実家に帰った時に実家の風呂が広いため娘は浴槽のはしに両手両足を使ってつかまりダチョウ倶楽部のモノマネをしていました、当然私は大爆笑です。

「漢字ができて頭が良くても周りを幸せにするか?笑いは周りを幸せにするんよ、だから素晴らしい。あんたはその能力を磨こうや。」

娘はその言葉を聞いて言いました。

「良い事いうな、パパを生んで良かったよ。」

「あんたの股から生まれた記憶はありませんよ。」

私のツッコミを聞いて娘はニッコリ笑っていいました。

「パパの子供で良かったよ。」

珍しくほっこりした一日でした。

感動

私は詩を吟じる事が好きです。時々ですが会社の空いた時間や家庭で吟じる事があります。

美しい詩を詠う事により私の魂が洗われていきます。

その日は私が夜勤の仕事でしたが7時ごろに目が覚めました。夜勤の時は12時45分から仕事の為、普段は8時~9時頃まで寝ています。

起きて寝室を出ると妻が洗い物をしていました。私は普段通り妻に向かってとびっきりの笑顔で挨拶をしました。

「おはよう。」

妻はコップを洗いながら私の顔を見て言いました。

「何で起きてきたんよ。」

朝から不快な気持ちにさせられましたが、負の感情を負で返すことは良くありません。

私は正の感情で返しました。

「とても目が覚めた時に気持ち良かったから起きないともったいないと思ってね。」

妻はその言葉を聞き何も言わずに軽くため息をつき私から目を逸らし洗い物に目を向け作業を続けていました。

妻の負の感情は続いています、こういった時の対処方法はどうしたらいいのでしょうか?

私は台所に立っている重い身体の妻(妊娠しているわけではなく物理的な意味です。)を1分程見つめている間に思いつきました。

こういう時こそ詩を吟じるべきです、私は最近お気に入りの詩を詠いました。

「私には野望がある、それは夢や希望なんて生易しいものではない。夢だったら諦める事もできる、希望だったら捨てる事もできる。でも野望はこの身が朽ち果てるまで消える事はない。」

妻がその詩を聴き、洗い物をしながら私に聞いてきました。

「何の野望を持ってるの?」

私は高らかに宣言しました。

「彼女を作る!」

妻は洗い物の手を止めずに無言のままです。

洗剤の付いた食器を洗い落とす水の音しか聞こえてきません。

私は詩を詠いスッキリした後、少しのどが渇いたので台所に置いてあるタンブラーを手に取りコーラを注ぎました。

私の使っているタンブラーは長いためコーラを注ぐときにコポコポコポと音が響きました。

その瞬間、妻は叫びました。

「コポコポじゃねーんよ!」

妻は洗い物の手を止め私の首根っこをつかみました。

私は妻に寝室まで引きずられました。

「もう一回寝てこい!」

捨て台詞とともに私を布団に投げ捨て足蹴にした後、ドアを思いっきり閉めて妻は出ていきました。

どこで妻が怒りを覚えたか不明ですがコーラを注ぐ音にまて突っ込むようになった妻に少し感動を覚えた出来事でした。

品性

私は常に品性を意識して生きています。人間を人間たらしめるもの、それは品性に他なりません。意識しておかないといくらでも下品になります。

何も考えないで生きていると易きに流れるのは人間の性です。

私は考え方だけではなく普段の生活態度、発言、歩いたり座ったりする姿勢にいたるまで常に品性を意識しています。

そんな私の品性とは違って妻は食べたらすぐ寝転びます。

私がそれを指摘すると妻は若干お怒りになる為、私は見ないふりをしています。

今ではせめて娘だけにでも人間として品性が大切である事が伝わればいいと思っています。

妻は普段の生活が波に乗れていないせいか食事をした後、寝転びながらネットサーフィンをするのが日課です。

食事をした後は少しゆっくりしてお風呂に入ります、私の仕事が早く終わって家にいる日は私がお風呂のお湯を入れに行きます。

一番風呂はその日の気分で妻が先に入るか私と娘が先に入るかが決まります。

その日も私がお風呂にお湯を入れた後どちらが先に入るか特に決めていませんでしたが読みたい本があったため妻に先にお風呂に入ってもらうようお願いしました。

寝転びながらネットサーフィンをしている妻は娘に言いました。

「お母さんを起こしてや。」

妻は自力で起き上がるのも大変なようです。体重が度を越えていますので自明の理です、そうなる前に気づかなかったのでしょうか?

妻は携帯を側に置き寝転んだまま仰向けの姿勢になり両手を上空に差し出しました。

娘はその言葉を聞き寝転んでいる妻の手をとり両足を広げ妻の体をまたぎました。

娘は妻の手を取ったまま引き上げずに妻の体のお腹の部分まで前に進みました。

明らかに前に進みすぎではないかと私が思っていた所で娘が言いました。

「お母さん、そのまま起きたら私の股間にズドンよ。」

そう言いながら妻の両手を全力で引っ張り上げます。

「いやー、やめてー。」

妻は叫びましたが娘は構わず妻の両手を引っ張り上げます。

「ワッハッハ、ワッハッハ。」

股間にズドンの妻を見ながら娘の品性が全く感じられない下品な笑い声が部屋中に響き渡りました。

人間を人間たらしめるもの、それは股間にズドン・・・、いやいや品性です。

もう手遅れかもしれませんが頑張って娘に伝えていきたいと思います。

笑いのレベル

妻は私の話を聞く事は苦手ですが自分が話をする事が大好きです。

仕事から帰ってきて妻の機嫌が良い日はよく話しかけてきます。

8割は妻の会社の人間の悪口です。

普段は妖精と話をしているのかと思うくらい声が小さく聞き取りにくい妻ですが人の悪口をいう時の声量と話の速度は3倍に跳ね上がります。

その日も妻が話しかけてきました。

「上司が朝礼でつまらん事を言うてくるんよ。コロナが流行している時期なのに『ゴールデンウイークは休みが多いからイタリア行こうかな。』とか『俺はイタリア旅行予約した。』とか。皆ぽかーんとした顔してたんよ。」

確かにオチもないつまらない話です。

「今行ったら日本にかえってこれなくなる、2週間隔離よ。本当につまらん話をして。」

妻は憤っています、妻の気持ちを和らげるために私は言いました。

「あなたは何もなくても隔離やけどな、イタリアに行ったら猛獣が来たって騒ぎになるから。」

「殺すぞ。」

私は軽快なトークを繰り出しましたが妻が更に憤ってきました。

少し話を変えないといけません。

「しかし一般人は笑いのレベルが低いな。まあ俺は笑いの天才やけど。レベルでいくと特Aかな。」

「いやいや、特Aはさんまさんとか笑いのプロの人よ。」

確かにプロを入れると当然順位は変わってきます。「まあ、それはそうやけど。じゃあイタリア野郎の笑いのレベルは?」

「うーんNくらいかな。」

当然ながら一般人の更につまらない話をする人ですからレベルはかなり下です。

それに照らし合わせると私のレベルはBかCあたりでしょうか。

「そんなもんやろうな。じゃあ俺のレベルは。」

「M」

即答です。

確かアルファベットの順番はNの前がMで覚えていましたがもしかして間違って覚えていたのでしょうか。

鎌倉幕府を開いたのが1192年と覚えていたのが1185年に変わったようにアルファベットの順番もA、B、M、C、D・・・と変わった?俺があいつであいつが俺?いやいや、そんなはずはありません。

「あれMってNのひとつ前よな。」

「うん。」

「絶対おかしい、俺がMなわけないやん。」

私の叫び声を聞いて妻は力強くいいました。

「いいや正確、あんたはMよ。」

Wの妻に評価されたショックな一日でした。

PS Wは笑いのレベルのWとWideのW、両方の意味を含みます。